リョウの口から手を離したレオナは兵隊達の前に立った。

彼女の瞳は険しく寄せられ、手は握りこぶしを作っている。

レオナの体、全身から殺気を感じる。

思わずリョウは身震いをした・・。

「やはり来たか・・。レオナ・スタルウッド。」

20人はいるだろうか・・兵士の内の1人が言った。

「私を甘く見ないで。クロードを攫っていくなんて・・絶対に許さない。」

「ふん・・・あんな鳥相手に・・・ずいぶんとむきになるものだな。」

 

兵士は嘲るように笑った。

その笑いがレオナを挑発する。

彼女は手をぎゅっと握り締めたが表情は崩さず鋭い瞳で兵士たちを見た。

挑発にのっては・・負けだ。

判断が鈍るし、こっちの行動を読まれてしまう。

「・・リョウ。」

「え?」

「貴方・・・戦える?」

「え!? えぇっ!?」

突然問われてリョウは面食らう。

今まで武器を持って本格的に戦った経験はない・・。

リョウを村から連れ出したあの老婆のような力もない。 

レオナのような力も、もちろんだけど無い・・・。

正真正銘に一般ピープルだ。

黙っていると、レオナは言った。

「戦えないのなら・・・どこかに隠れてて。」

「た、戦うの!? レオナ!」

ここは中央街から離れているので、町の人に被害はないかもしれない・・。

でも、相手は兵士だ。

しかもかなりの数の・・。

レオナが強いことは知ってる。

さっきもあんな魔物を一人で倒したのだから。

でも、こいつらは魔物とは違う。

おそらくはちゃんと正規の訓練を受けた軍人だ。

さっきの会話を聞く限り、彼らがレオナの「大切なもの」を奪った者だということは明確だった。

彼女の殺気も十分すぎるほど伝わってくる。

でも・・・危険すぎる!

「レ・・レオナ。」

リョウが声をかけるかかけないかの内に、レオナの上空に風の渦が生み出された。

あの時、魔物を倒した際に使ったものだ。

微妙に薄い青の色を含んだ風・・とても美しい。

でもリョウはその風の鋭さを知っている。

あの時と同じようにレオナの髪が柔らかく広がる・・・。

それと同時に風の渦も形を変えていく。

彼女の風の渦はいくつもの数に分裂していき、まるでガラスの破片のように兵士達に向かっていった。

 

早い!!

 

リョウは感じる。

魔物を攻撃したときとは比べ物にならない程の早さだ。

兵士たちはその風が見えているのだろうか・・。

数人が風の攻撃を受けて傷を負ったようだ。

しかし、すぐに剣を構えて応戦する。

「さすがだ・・。呪文の詠唱なしに、ここまで風を操れるとは。

お前はやはり、野放しにしておく存在ではないな。」

兵士の一人(先ほどレオナと言葉を交わした者だ・・)が呟いた。

レオナはその言葉が聞こえているのだろうか。

次々に風の渦を操り、兵士達に攻撃をしかける。

兵士たちも剣や弓矢で応戦するが、簡単に彼女にかわされてしまった。

レオナの身のこなしはただの少女とは思えない。

正規の軍人である彼らに対し、体術で互角以上の力をみせているのだ。

兵士たちの剣をかわし、素早く後ろを取る。

遠距離の兵士には風の能力を使って応戦していた。

兵士たちは、どうやら特別な力を使えるわけではないようだ・・・。

彼らの武器はもっぱら剣と弓矢だ。

と、いうことはやはり、レオナは老婆の言っていた超能力者なのか・・とリョウは思った。

だとすると、この位の兵士ならレオナにとって倒すことは簡単なのかもしれない。

相手は能力を使えないのだ。

彼女は知ってて戦うことを決めたのだろうか・・。

そう考えているとあの兵士がレオナを見て、にやぁと笑った。

 

「我らの力でお前を倒せるなんて、はなから思ってはいない。

しかし・・俺はお前を倒す方法を知っているさ・・・。」

「・・どういうこと? 負け惜しみならもっとマシな事を言うかと思えば・・。

さっさと、クロードを返して。

私をここにおびき寄せて体制を立て直してから攻撃しようと思っていたみたいだけど、

どうやら無駄だったみたいだし・・。」

「その、クロード・・。あの鳥だ。」

 

そう言うと兵士は指をパチン!と鳴らした。

すると、どこから出てきたのだろうか・・・。

数人の兵士が彼の前に現れた。

その内の一人が鳥かごを持っている。

レオナは目を細めて鳥かごを見た。

さっきまで強気だった表情が一気に青ざめる。

「・・・・っ! クロード!!!」

鳥かごの中には金色の羽を持った美しい鳥が閉じ込められていた。

可哀相に兵士たちに攻撃を受けたのだろうか、羽のところどころが血でにじんでいて痛々しい。

 

「ようは、お前が俺たちを攻撃出来なくなればいいのさ。

お前が俺たちを攻撃しようとすればその前にこの鳥を殺す。」

兵士は相変わらずいやらしい笑みを浮かべている。

「・・・そんな脅し。」

そう言ってレオナは再び風を兵士たちに向けようとした。

しかし、彼女の手は微かに震えている・・。

表情からは分からないが相当焦っているに違いない。

 

その時だ。

鳥かごを持っていた兵士が鳥の首元に短剣を突きつけた。

そして、微かに動かす。

金色の美しい羽がハラリと落ちた。

「やめてっっっ!!!!」

思わずレオナが声を上げる。

その時レオナは口を押さえる。

駄目だ。ポーカーフェイスでいないと・・・。

奴らに弱みを見せてはいけない・・。

 

大丈夫だ・・。鳥は生きている。

羽が少し切れただけだ・・。

リョウは安堵した。

レオナの風が微かに弱まる。

・・・動揺しているようだ。

それを見て兵士は笑った。

「どうした? レオナさんよ・・。早くその風を下ろしてくださいな?

そうしないとあんたの大事な大事な鳥さんが動かなくなってしまうぜぇ?冷たくなってよぅ。」

「・・・っ!」

 

レオナの風が消える。

・・と同時に彼女は一気に鳥かごを持った兵士につっこんだ。

彼女は腰にさしていた短剣を抜き一気に兵士につっこんだ。

彼女の短剣が兵士の胸を貫こうとした時、兵士の抜いた長剣によって行く手を阻まれた。

短剣と長剣の刃がぶつかり合い、カンカンと乾いた音を立てる。

「そんなに大事かぁ? あんな鳥がよぅ・・。 

ふん、まぁ無理もないかぁ? 何たってあの鳥はただの鳥じゃないからな・・。」

そう言うと兵士は勢いを付けて長剣を離し、バランスを失いよろけたレオナに思いっきり蹴りを入れる。

腕力ではいくらレオナといえども適わなかった。

彼女の体は宙に浮き地面に叩きつけられる。

ドサッと嫌な音がし彼女は小さな悲鳴を上げたが、またすぐに起き上がり兵士に向かっていった。

 

「こんな鳥、殺してさっさと俺たちを倒せばいいものを・・。さすがだな。だって、あの鳥は・・・」

「っ! 黙れ!!!」

 

レオナが叫ぶ。

しかし、彼女の体は男の攻撃によって再び宙に浮いた。

動揺した彼女には隙があった。

元々訓練を受けている兵士だ。

弱いはずがない。

「レオナ!!!」

リョウが叫ぶ。

だめだ・・・今の彼女では適わない。

何か、彼女を助ける方法は・・・。

リョウは必死に考えを巡らせた。

自分も何かしなければ・・・!

彼女を助けなければ。

・・・・そうだ!!

 

倒れたレオナの前に兵士が立つ。

「お別れだなぁ・・。レオナさんよ。黙っていたら可愛い女なのにな。」

男の持った長剣が彼女に振り落とされるその時、

リョウは自分の懐にあった短剣を鳥かごを持っていた兵士の腕をめがけて放った。

「うわぁっ!!」

あの鳥が解放されればいい。

そうすれば、レオナは心置きなく戦える。

突然の事に、その兵士は持っていた鳥かごを落とす。

短剣には威力はない。

しかし、不意をつくには十分だった。

カシャンという音と共にかごは開き、中から鳥が転がるようにして出てきた。

それに気づいたレオナはほっと息を吐く。

よかった・・・。

同時に倒れたレオナの周りに魔方陣が現れた。

驚いた兵士は後ずさりする。

ふらつきながら彼女は立ち上がった。

急いで鳥を拾い上げると叫ぶ。

「リョウ! 下がって!!」

それは警告だった。

リョウは急いで自分のいた場所から数歩下がる。

 

「木々から生まれる碧き風よ・・・我、レオナ・スタルウッドの名において命ず。

かの者の向かい裁きの力を示さん!」

レオナが通る声で詠唱する。

魔方陣が輝きを増す。

兵士たちは慌てて逃げ出すが間に合うはずもない。

魔方陣の輝きは最高潮に達する。

彼女の風は兵士たちの周りを取り囲んだ。

風は一斉に刃になり、兵士達に向かう。

その風の刃は光を帯びて力を増して兵士たちに向かった。

その刃によってやられたのだろう、間もなく風の渦の中から兵士たちの叫び声が聞こえた。

凄まじい悲鳴・・・。

風が止む・・・。

風の渦の中には、もう兵士たちの姿は無かった。

     ・・消滅したのだ。

 

「レオナ!!!」

リョウは彼女に駆け寄った。

大丈夫だろうか・・・。

彼女はかなり怪我をしていたはずだ。

手当てをしないと!

彼女はしゃがみこんで傷ついた鳥を抱きしめていた。

優しく・・・愛しそうに。

大丈夫・・かなり、傷ついてはいるが鳥は生きている。

「クロード・・・よかった。」

彼女は消えそうな声でそう呟いた。

 

第七章 〜大切なもの、大切な人〜 Fin